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リビジョン 1 (KOBAYASHI Shinji, 2011/09/08 23:56) → リビジョン 2/33 (KOBAYASHI Shinji, 2011/09/09 00:00)

h1. openEHR.jpのサイトについて 

 本サイトは "the openEHR Project":http://www.openehr.org/ について日本国内での地域活動を支えるためのものです。設立者の一人であるDavid Ingram教授の引退を受けて、2011年9月現在、the openEHR foundationは組織を新しく作り替えております。日本での活動についても、組織化やその他を検討しているところです。 

 The openEHR ProjectはEHRに関するISO 13606標準を実装ベースで研究しているプロジェクトです。他のオープンソースソフトウェアプロジェクト同様に、the openEHRプロジェクトもまた、オープンソースソフトウェアプロジェクトです。コミュニティによって支えられ、発展していきます。コミュニティは、いうまでもなく個人の集合体です。それぞれのモチベーションや個性をいかして、貢献していくことができます。あなたの貢献が直接・間接的にこのプロジェクトの資産となっていきます。そして、それが明日の医療標準、そして医療そのものへの変革となっていきます。 

 h1. The openEHR Projectとは 

 The openEHR Projectは医療情報を標準的に記録していく方法を開発しています。医療情報を適切に取り扱うことは、それほど簡単ではありません。多くの概念要素が複雑に組み合わさり、しかも時代によって変遷していきます。医学は解剖、生理、生化、病理などの学問体系によって構成されています。それぞれで利用される用語や概念は統一されつつありますが、時にそのズレが問題になることがあります。病名は解剖学的位置関係や生理・病理を含む複雑な概念体系です。 

 これらの用語体系(ターミノロジー)の整備は、欧米ではIHTSDOによるSNOMED-CTという形で標準化が進められています。SNOMED-CTはオントロジー工学を背景に持つ、概念体系であり、the openEHR Projectもまたオントロジーを利用した概念定義を行います。現在は "Clinical Knowledge Mangaer":http://www.openehr.org/knowledge/ で公式に開発された約250個の診療概念(アーキタイプ)が公開されています。各診療概念をアーキタイプという細粒度の診療概念で表現する仕組みを定義するという手法について標準化しているのがopenEHR projectであり、ISO 13606標準です。 

 h1. 日本の現状とopenEHR Projectへの期待 

 日本では1970年代から積極的に医学分野への応用が進められてきました。1990年代からは電子カルテの実現、そして地域における医療情報の共有に向けての取り組みが国を挙げてなされてきました。全国の医学部に医療情報部が作られて、多くの医療情報学教授が誕生し、この分野のリーダーとなりました。2011年現在、日本における医療現場の電子化は他の国に引けを取るものではなく、効率よく安全な日本の医療を下支えしています。 

 しかし、医療現場への応用を最優先で取り組んできたあまり、基礎的な情報学的研究が欧米と比較して遅れているというのが実情です。医療全体にかけるコストが圧縮されている中で、低予算でシステム開発および導入に取り組まざるを得なかった結果として、新しい技術の取り込みや研究成果を活かすことに他の分野に比べて遅れているというのもまた、日本の現状です。 

 一方で、ISO/TR 20514で定義される[[Integrated Care EHR]]は保健に関する情報をコンピュータ処理のできる形式で集積するものであり、安全に伝送と保管が行われ、認証を受けた複数の利用者がアクセスできるものです。EHRシステムとは独立した一般的に認識された論理的情報モデルによりその情報は構成されます。過去、現在、そして未来の情報が蓄積された質の高い統合された保健・医療の効率を向上させるために質の高い支援を継続的に行うというのが第一義的な目的とされています。また、以下のような要件を満たすものであるとされています。 
 * 患者中心:EHRと診療の目的が一対一で対応し,医療機関で実施される各診療内容のエピソードとは対応しない。 
 * 長期的:長期にわたるケアの記録であり,できれば誕生から死までを記録できること。 
 * 包括的:全ての医療従事者や医療機関が患者に対して行う診療イベントを含むものであること。一つの専門分野だけに限定しない。言葉を変えると,EHRに記載されていない重要な診療イベントがあってはならない。 
 * 予見性:過去のイベントの記録だけではなく,計画,目的,指示,評価に関する判断材料となりうるように予見できる情報を持つこと  

 また、日本では病院内での電子化された診療記録をEMR(Electronic Medical Record)とし、広域に個人の健康記録を集積して管理するものをEHRとしていますが、ISO/TR 20514では病院内における電子化診療記録はlocal EHRとして、本質的に同じものであるとしています。あらゆる場面において健康情報・医療情報は共通される論理情報モデルで構成されるべきものである考えられています。ISO/TR 20514から読み取れるEHR戦略とは、つまり国民の健康情報すべてを再利用して、保健医療の向上を目指していくというものです。 

 しかし、現状の電子カルテには電子化された医療情報が集積されていながら、それを再利用していくことは簡単ではありません。各診療現場で利用するために開発されたものであり、それぞれのユースケースに応じたデータ定義をその時その時にしてきました。厚生労働省や文部科学省から度々来る現状調査や、疫学的研究のためにデータを収集しようとしてもなかなか思うようにデータを抽出できずに困った経験は皆さんお持ちだと思います。現状の電子カルテの機能やベンダーの対応に不満があったとしても、内部データはほぼブラックボックスであり、ベンダーが任意的に定義したデータ構造で記録されていますから、それを他のベンダーのシステムに対応できるように変換することには多大なるコストが必要となり、実際にはほぼ不可能です。同じベンダーのシステムをバージョンアップするときですら、情報構造の変換にはそれなりの手間がかかり、そのコストはユーザーが負担するものとなっています。 

 The openEHRプロジェクトで開発されたISO 13606標準はISO/TR 20514における診療概念に対する論理的情報モデルを定義する方法についての標準化が記述されています。The openEHR Projectの発祥の地であり、CEN 13606として先にヨーロッパ標準として普及を進めた欧州では、ISO 13606標準による医療情報を記録し、その情報を医療水準の向上のため、公衆衛生の向上のため利用していこうとしています。 

 日本においても、EHRについての取り組みや研究が進められています。電子カルテについても日々改良が加えられています。電子化された情報を蓄積したり、共有するためにデータフォーマットを標準化していく試みもなされてきました。しかし、蓄積された情報を多方面に応用していくような仕組みを構築するために、どのようにデータを保管していくべきか、つまり相互運用性の高いデータを記録していくためにはどうして行けばいいのかということにまで考えていかなければ、前述のような問題をそのばその場で繰り返していくことになります。 

 日本においてもISO 13606を採用していくのか、それとも現状のままでいくのか、あるいは他の方法を開発するのか、それは日本人である私たちが決めていくべきことであり、この10年以内に積極的に取り組んでいくべきことであると思います。いずれにしても、現状で満足している人というのはそう多くないでしょう。 

 私たちはthe openEHR Projectを通じて、日本におけるEHR構築について研究と開発を行っていく団体です。興味のある方のご参加とご活躍をお待ちしております。